三原に吹く風

 

醍醐桜

 

岡山県真庭市の醍醐桜は、県下一の巨木といわれ、日本名木百選にも選ばれた見事な桜だ。

樹齢について文献では700年が多いが、地元の説では1,000年とされている。

目通り7.1m、根本周囲9.2m、枝張り東西南北20m、樹高18m、種類はアズマヒガン(ヒガンザクラの一種)で、昭和47年12月岡山県の天然記念物に指定されている。

名前の由来は、後醍醐天皇がこの地に立ち寄られた際「見事な桜じゃ」と言ったとか。

毎年、4月上旬から中旬頃に、見事な華を咲かせ、大勢の観光客が訪れる。

 

4月6日金曜日午後5時過ぎ、初めて醍醐桜に会いに、岡山県真庭市を訪れる。

日中は渋滞していただろう一本通行の細い山道も、臨時駐車場に立つ人の手招きでどんどん上に上がって行く。

一番近い駐車場に車を停め、来た道を歩いて少し下る。

のどかな山里の風景の中にその桜は、みつまたの木や小さな墓石に守られるように、ひっそりと堂々とただ一本だけ空に向かってそびえ立っていた。

夕暮れになると、きらきらと蜜柑色した自然のスポットライトが桜を照らす。

まだ青い空に白い筋のような雲がゆっくりと流れ、花冷えのするきーんとした空気が威風堂々としたその姿をくっきりと浮き出す。


ひたすら圧倒されて見る人。

感嘆の声をあげる人。

語りかけるようにひっそりと見守る人。

手を合わせて祈る人。

その場を離れがたくいつまでも振り向く人。

 

それぞれがこの桜と語らう。

傍に行くと、この桜の中から湧き出る生命力を感じて鳥肌が立った。

 

少しずつ年を重ね、いつでも優しく春を知らせ、そして老いてからなおいっそう、その存在だけで多くを与えてくれる。

言葉が出てこない。

 

やがて陽がすっかり隠れて、今度は水銀灯が徐々に醍醐桜の夜の顔を映し出す。

白から、黄緑に、より幻想的になって溜め息が零れる。

 

やっぱり日本は桜の国。

 

日本人はこうして、ずっと何かを守り、何かに守られて生き継いできた。

あと何年私たちはこの桜を見守り、この桜に見守られることができるだろうか?

この少し遠くにある桜が、春になって思い出す度に見にきた人すべてを見守っていてくれる気さえする。