幸せな登山道

 

秋の休日、映画にしようか山歩きにしようかと迷った挙句、気がつけば夏の尾瀬以来になる山歩きに出かけることにした。
場所は県民の森、牛曳山・伊良谷山・毛無山の約3時間で楽しめる縦走コース。
先週の日曜日が紅葉のピークで、県民の森のHPアップ写真も11月に入ってご無沙汰らしい。
一足早い初雪だったので、きっとブルブル震えながらの紅葉狩りだったろう。
ピークを過ぎた山はひっそりとしているが、、楽しませてくれるものはたくさんあり、かえって自然に親しむにはもってこいだ。
遅い出発だったので、12時少し前に六ノ原公園センターに着き、駐車場に車を置いて、来た道を少し戻って登山口に入る。
歩きだしてすぐ、目の前に白樺林の美しい風景が現れた。
決して広い範囲ではないが、適当な斜面に葉を全て落とした白樺が整然と並んでいる。
突然日常とはかけ離れた場所にいることを意識させられる。
しかも、大げさではなく広島県であること、日本であることさえも忘れるようなワンカットの切り取られた美しい風景だ。
撮影スポットとしては有名らしく、家族づれやアマチュアカメラマンのおじさんたちが三脚を立てていろいろな角度からシャッターを押していた。
ジグザグに山道を登って行くと、今まで見上げていた白樺林を見下ろすポイントに着き、そこからの風景は、白い落葉樹の間に紅葉の赤、空の青が今度は和洋折衷のようなコントラストを作り上げ、この景色が見られただけでも今日は花まるだ。

柔らかい落ち葉の絨毯を踏みしめながら気持ちよく登って行く。
角になると、気持のよい秋風が吹き抜ける。
汗っかきにとってはありがたい天然の扇風機だ。
小さな沢を渡ったり、ブナ林を抜けたり変化の富んだ楽しい山道だ。
ササやツゲが目立ちだすとやがて稜線になり、すぐに頂上に着く。
80分のコースタイムは、ファミリー向けだったのか、珍しくコースタイムよりも早い到着に嬉しくなる。
ガスコンロで沸かした味噌汁と大きなおにぎりが今日のお弁当。
次の伊良谷山までは下って登って600メートル、腹ごなしにはちょうどいい距離だ。
ここからの眺望は、地図を観ているような感じで、たどってきたルートや、以前に縦走した比婆山コース、冬にはよくお世話になったスキー場のコースも一望でき、話も尽きない。
毛無山までも下って登るが、ここは県民の森の代表的なブナ林が中心の山道で、変化に飛んで飽きない。
毛無山の頂上にはケルンや展望説明の石盤もあり、思ったより広く風通しのいい快適空間だった。
ゆっくりしたいところだったが、風もだんだんと冷たくなり、雲行きも怪しくなってきたので、早々と下山することにした。
行きよりもさらにフカフカの落ち葉の絨毯が、疲れた足に優しい。
ザッザッザッザッ。
聴きなれない鳥の声が聴こえる。
チッチッチッチッ。
残った葉っぱを風が少しずつ音をたてて落としていく。
カサカサカサカサ。
秋の山はいろいろな音が聴こえる。
西陽が木々の間から射して、キラキラと輝いている。
この道は危険な場所も少なく、安心して秋を全身に感じながら快適に下る。
季節でいろいろな顔を持つ登山道。
季節だけではなく、一日の時間によっても少しずつ違うのだと実感する。

次の日、親戚宅でこの話をすると、牛曳山の入口に6月の初旬になると真っ白なミマヤヨメナ(都忘れの白い花)が一斉に咲き、この世のものとは思えない風景が見られると教えてくれた。
その頃には、白樺も若葉で覆われ、また違った表情を見せてくれるだろう。