歴史の目撃者になる!

試合終了のホイッスルが鳴ると、TVの中から歓喜が溢れだし、喜び、驚き、感動、複雑な感情の中でおぼれそうになった。
だって、嬉しいのに顔は泣き笑い。
6月25日午前3時30分、南アフリカ、ルステンブルグのロイヤルパフォケングスタジアムでの94分間にわたる激闘を、日本人、いや、世界の人々が目撃した。
サッカーを愛して応援してきたサポーターやサッカー関係者が待ち望んでいた瞬間だった。
あの、ドーハの悲劇を始め日本代表の印象的な試合を数多くリアルタイムで見てきたけど、これほど、感動的な試合はなかっただろう。
試合開始直後は、デンマークのスピードのあるパス回しに翻弄されていたが、それも長くは続かなかった。
無駄なプレスをかけずに、パスコースに直感的、直線的に走りこむという、省エネプレスが、すぐに実を結び、松井、長谷部と立て続けにシュートを放つ。
「今日は何かが違う」と予感させる流れの中での躍動的なシュートだった。
そして、17分、本田の無回転FKがゴール左に突き刺さった。
30分には、本田が行くと思いきや、大試合ではふかしてばかりいた遠藤が、右上に芸術的なFKを決めた。
軌道は、壁をあざ笑うように右に避け、ゴールポストの手前で、面白いようにカーブして右の角に突き刺さった。
スローモーションで映った、壁のデンマークの選手たちの何もできずただ唖然とその行方を見届ける表情に、思わず声を出して笑ってしまった。

キャプテン翼でよく見たバナナシュートだ。
「遠藤! かっこいいぞ!! こんな遠藤のシュートをずっと見たかった!!!」
フリーキックで、2点も捕れるなんて誰が予想しただろう。
それにしても、誰にも邪魔されずに障害物を避けて、ゴールに突き刺さるフリーキックは、なんて美しいのだろう。
日本ペースのまま、前半が終了。
攻め込まれて危ないシーンもいくつかはあったけれど、何故だか今日は、やられる気がしなかった。
11人の青い侍のオーラが、今まで見たことのない迫力で光り輝いていたからだ。
後半は、もう慌てるデンマークの攻撃をあざ笑うかのように、ピッチを日本選手たちが、自由奔放に駆け回る。
窮屈な組織的なプレー、細かいパスをつないでゴールを狙うという、オーソドックスな、テクニックを必要とするプレースタイルはそこにはなかった。
FWもMFもDFもGKも、11人全ての選手が想像力の溢れるプレーを楽しんでいるように見えた。
しかも、フォア・ザ・チームという最も日本人が好きなやり方で。
ずっと守備に徹していた長友までが、再三オーバーラップをかけてくる。
阿部もトゥーリオも、どんどんゴール前に集まってくる。
どちらがリードしているかわからないくらいの積極的なプレーは、攻撃こそが最大の防御だということをこの大舞台で証明してくれた。
もう、笑いが止まらない。
不運なPKを決められても、負ける気がしなかった。
攻める姿勢は最後まで貫かれ、42分に、本田が自ら突破したゴール前にごっちゃん横パスを岡崎に渡し、それを落ち着いて決めた。
身長では不利なDFも、ヘディングではほとんど勝っていた。
これが、トゥーリオが言っていた、「下手は下手なりのがむしゃらなサッカー」なのか?
いや、闘志の漲ったフェアプレー精神溢れる、見事なサッカーを全世界へ向けて見せてくれた。
大会前のテストマッチ4連敗で、監督も主力選手も、メディアから、ファンから、ズタズタに叩かれた。
それで、開き直ったのか、目から鱗がはがれたのか、それまでの戦術をガラッと変えた今回の布陣は、見事に機能した。
みんなが待ち望んだ日本のサッカーがそこにあった。
一人の有能な司令塔でも、テクニシャンのFWでも、屈強なDFでもなく、11人全員で成し遂げた日本サッカーの今を、大勢の人々が、確かに目撃した。
この試合は、単に決勝リーグへ進むための大事な試合だけではなく、今までに想像することさえ許されなかった、未来へ続く輝ける日本のサッカーの姿そのものだった。
もう、迷うことはないだろう。
すでに侍たちは、もっと先を見つめている。
全てが終わって、TVを切ると、早起きの鳥たちが祝福の声で鳴いていた。
もう、外も明るい。
なんだか、とっても晴れやかないい気分だ。