釣り法要

久しぶりに船釣りをした。
5時40分に吉和の港から中型の船に乗り込み、因島大橋の下をくぐり、静かな朝の瀬戸内海を進む。
行先は船頭さんまかせ、眠たい目をしばしばさせながら、曇り空を仰ぐ。
太陽は雲に隠れている。
どうやら今日はこんな天気らしいから、日焼けの心配はなさそうだ。
釣り客8名、+2名、船のスタッフ3名、総勢13名で、冗談の掛けあいをしながらの船旅は潮風が心地よく、あっという間に潮止めに着く。
今日の狙いは、夏が旬のキスだ。
餌は、細いミミズみたいなアオイソメ(朝鮮ゴカイ)、半分に切って(もちろん手でちぎる)切り口から針に刺す。
なるべく自然に針が出ないように長めに差し込むと、針から逃れた部分は元気に動く。
用意してもらった細めの竿を受け取り、釣り方を習う。
リールをゆるめて、ちょっと先に落とし、錘がコトッと下に当たったら、リールを止めて、トントンと2,3回底をたたいて少し竿をあげる。
それを、当たりがくるまで繰り返す。
「ああ、なんか懐かしい、この感覚・・・」

昔取った杵柄とまではいかないが、三原に来たばかりの時は、義父のお伴でいろんな場所で釣り糸を垂れたものだった。
すぐ近くの川ではハゼが釣れたし、上流まで出かけての川釣り、防波堤や海岸での投げ釣り、船釣りも3,4回は経験した。
中でも、因島の親戚が持っていた小舟で初めてギザミを釣りに行ったことは、忘れられない思い出だ。
テグス(竿ではなくてハリの付いた糸をそのまま落として釣る)で入れ食い状態。
ダブルは当たり前でトリプルの時もあった。
熱帯魚のようなギザミは決して美味しそうには見えなかったけど(食べたら美味しい!)、飢えた愚かな魚がエサに食いつき、それがビクビクッと手に伝わる衝撃が楽しく、それがやがて快感となった記憶がいまだに残っている。
後にも先にもあんなに釣れたことはなかった。
本日のキス釣りも、競争しているわけではないが、それぞれの竿からぼちぼち獲物が掛かりだした。
まず1匹目は安心感がある。
「おぅ! 今日はこれでボウズ(1匹も釣れないこと)じゃないでぇ」
そんな言葉に「おめでとう」と返せるのは、まだ余裕がある時間帯で、みんなに釣果が出て、仲間外れになってきたころ、焦りが出てくる。
そんな時、竿が急に軽くなり、糸が外れてしまった。
どうやら竿の故障らしく、テグスに換えてもらう。
それからは、ぼちぼち当たりだして、楽しくなってきた。
「やっぱり釣りは釣れて、ナンボだよねー」
入れ食いとまではいかなかったが、釣り場をちょこちょこ移動してくれる度に1匹2匹と釣れ出す。
餌付けも上手くなり、手にぐぐぐっとくる快感を何度も味わう。
強い引きが来たと思ったら、小型のサメ(ホシザメ)まで釣れた。
これは、船頭さんに処置してもらったが、他にも、アサヒアナハゼや小さいフグも釣れて、「キスは少ないけど、魚の種類はトップだ!」と喜ぶ。
結局、釣果は二人で30匹ほど、帰宅後、中型を開きにして天ぷらに、大型と小型を塩焼きにして三杯酢に漬けこんだ。
釣りたての魚を貰ったことは今までにもあったが、やはり自分が苦労して(粘って)釣った魚は格別美味しい。
帰り路、義父が生きていたら、こうして年に一度は船釣りを楽しめたかもしれないと話す。
釣りの前日に真剣な顔でそれでもなんか楽しそうに釣り支度をする義父の姿、絡まった糸を解いてくれたり、深く食い込んだ針を取ってくれたり、いろんな世話を焼いてくれた姿を懐かしく思い出す。
義父が亡くなってもう、24年、今年は25回忌にあたる。
だから、釣りも25年ぶりにした。
お義父さんも一緒に乗っていたかもしれないな、ふとそう思った。