運動会とトラウマ

運動会にはあんまりいい思い出がない。
小学生の頃、足がそこそこ早かった私は、背の順で組が決められる徒競争では1番だったけど、背は低いけど一番足の速い子がリレーの選手で、2番目の私は中距離走の選手だった。
ああ、やだな、リレーの選手だったら1周ですむのに、って、思った。
待っている時間の緊張感も苦手で、お腹が痛くなったり、(たぶんあの待ってる体勢がトイレに行きたくなるんだ)ヘンな汗が出てきたりしていた。
大人になって、私はそんなことよりもっともっと大変な場面に遭遇することになる。
今からもう10年以上も前のこと。
三原市は市民運動会にかなりの時間と労力を使っている、と神奈川県藤沢市の市民運動会しか知らないけどあえて断言する。
9月の第一日曜日に各地で行われる町民運動会。
そこで市民運動会と同じ競技が行われ、その優勝チームがそのまま市民運動会の代表メンバーになる。
町民運動会は、市民運動会のための予選会のようなもので、最低4回はライトに照らされた小学校のグランドで練習がある。

私が長く出場していたのは、30歳以上女子8人(2人ひと組)によるボーリング競争。
バドミントンのラケットにバレーボールを乗せて二人で手を繋いで走り、途中で交代。
投げる人と受ける人に分かれ、投げる人は三角形の三点の位置に並べられたビール瓶目がけてボールを投げて、全て倒れたら、ボールとラケットをそれぞれ持って、走ってリレーする。
細かいルールはあるが、わりとシンプルでかついろいろな要素が詰まった競技だ。
我らが町内は、この競技のみに参加し、町民大会でも何度も優勝し、市民大会に出場し、そこでも1位か2位という優秀な成績を収めていた。
その年も、楽々町民大会で、優勝し、体育の日に行われる市民大会に駒を進めた。
最後の練習日、体育指導員による恒例の雄たけび「エイッ!エイッ! オーーー!!」に、その場の全ての町民が反応し、秋の夜空の虫の声に負けずに「エイエイッオーー!」。
私は、たいてい投げ手のほうだったが、ストライクも結構あるし、ほとんど2、3回も投げれば倒れる安定感を誇っていた。
「今日も楽勝!」そんな市民運動会当日なはずだった。
競技は後半。
総合優勝を某町内会と争っていた、我ら町内は、この年も抜きつ抜かれつの接戦を展開。
時間が近づくにつれ緊張感も増してくる。
そして、いよいよ出番がきた。
今でも、はっきりと覚えていた、秋晴れの土埃のたつグランドの左から2番目のレーン。
1番手からトップで受け取ったボールを受け取り、余裕の笑顔で走り出す。
一投目で、両端の日本が同時に倒れ、残るは真ん中の1本。
「よしっ」とばかり、投げる、・・・・が、外れる。
「何のことはない! いくよ!」投げる、・・・・またもや外れる。
ボールは、途中までまっすぐいってるようでも、途中から微妙に左右にそれる。
「落ち着いてー!」ペアのK子ちゃんの声が聞こえる、その顔にはまだ笑顔が。
練習でも、5回以上は投げたことのない私は、だんだん焦ってきて、肩に力が入る。
力が入れば入るほど、当然のことながら、ボールはとんでもない方向に逸れる。
これはもう「やっちまった現象」、焦る→力が入る→それる、という終わりなき悪循環のドツボに見事に落下してしまった。
受けるK子ちゃんの顔も強張って、声も出ない。
どのくらい投げたか、もう覚えていないが、周りがにわかにザワザワしてきて、「かわいそう」「きのどく」「どうにかしてあげて」と言う声が飛び交っていたらしい。(当然本人の耳には届いていないくらいのパニック状態)
奇跡の一投が、なんとか当たり、泣きそうな二人が次に繋ぐ。
なんと、残りの二組がストライクを連発して、最下位は免れたものの、この醜態は打ち上げでも周りがその話を避けるくらいに悲惨な光景であったらしい。
「たかが運動会、されど運動会」なのです。
結局、最後の種目総合リレーで1位になった我がブロックが総合優勝をし、事なきを得たものの、この前代未聞の出来事は市民運動会の悲劇として長年語り継がれることになった。
私は、伝説の人になってしまったわけで、3年前まで、仕事を始めたことをきっかけに市民運動会に出ることはなかった。
人数がどうしても足りないと言われた3年前、久しぶりの復活を、受け手の立場で遂げ、それでも、練習中にもなんとなく当時の苦い思い出がよみがえりつつ本番の町民運動会を迎え、見事3位になり、代表から外れ、今年の運動会。
何故か練習から楽しく、和気あいあいとし、結果的に優勝した。
それでも、受け手という立場はそのままで、練習では投げてはみたものの、投げると当時のトラウマが蘇り、最後の一本になると「やっちまった現象」にハマってしまう。
さて、このトラウマは、いつか投げ手として復活出来る強い精神力を持った時に初めて無くなるのだろうと、大袈裟に考えるのであります。
(追記 わざとではなく市民大会当日は一身上の都合のため、参加できずに残念至極)