八丁座の不思議

広島の老舗デパートの福屋の8階に去年リニューアルオープンした映画館八丁座のフロアーは、外の喧騒とは別世界。
1階から直通エレベーターを降りると正面には、しゃれたカフェがあって、そこの店員さんが、いらっしゃいませの言葉の代わりににこっと笑ってくれた。
すぐ横にあるベンチに腰をかけ、しばらく人の流れを目で追ってみる。
カウンターで飲み物と軽食のセットを注文して、そのまま左横にある店に座るご夫婦。
小さなトレーに注文したものを乗せて、映画館に向かう中年男性。
顔馴染なのか、ひとしきり可愛い顔の店員さんと話してから店に入るダンディな初老の男性。
待ち合わせより少し前に来ると、時間を気にせずに、沢山のシーンが目撃できる。
さきにチケットを買って、今度は映画館のロビーに入ってソファに座って観察する。
仕事帰りのビジネスマンが缶コーヒーを片手にメロンパンをかじっている。
決して広くはないけど、少し古ぼけた応接セットの椅子も、壁に沿って並んでいるベンチも、その場にしっくりとハマっている。
静かに読書をしている人、テーブルに置いてある切り抜きや関連記事を真剣に読んでいる人。
押さえた照明の加減がちょうどいいと思う。
連れが来て、まだ時間に早いので何か飲もうとカフェに行くが、通路にあるゴミ箱を見ると、沢山の缶が目についた。
「持ち込んでもいいみたいだから、なんか買ってくる」
と、同じフロアーにあるデパート売り場の自販機で缶コーヒーを購入。
地下で買ったパンで夕食を済ませることにした。
「ねぇ、ビールの缶がゴミ箱に捨ててあったよ」
映画館とアルコールの空き缶がどうも結びつかずに、ぼそっと連れに報告する。
本当の驚きは映画館に入ってから。

ミニシアター系特有の、ゆったりとした椅子に、前後のスペースもかなりの余裕があり、白木の幅の狭いテーブル代わりの板が前に備え付けてある。
ドリンク置き場の丸い窪みもちゃんとある。
前に20代の女性が腰掛ける。
座ったとたんに、バックの中からゴソゴソと酎ハイのロング缶を2本取り出して、テーブルにポンと置く。
続いて、お弁当やおつまみを・・・。
「んん?」
続々と入ってくる人たちの多くはトレイを持っていて、缶ビールにおつまみセット・・・。
「え?」
お酒飲みながら映画?
ここはそういう映画館?
そういえばさっきからどこからともなく、アルコールの臭いが漂っている。
不快な感じは不思議としない。
おつまみのピーナツだって音を立てずに食べている。
映画が始まると、集中していたので、周りがどんなものを飲んでいたかなんて全く気にならなかった。
映画は面白く、2時間があっと言う間に過ぎた。
最後のエンディングロールが終わって場内が明るくなるまで、少なくとも私の席まではたつ人は一人もいなかった。
全て終わって、明るくなるのを合図に、ゆっくりしたテンポで出口へ移動する。
ロビーのゴミ箱にはビール缶が山になっている。
今日はメンズディなので、男性の一人も多い。
今まで経験したことのない映画観賞。
ここは大人の映画館。
私は、年齢から言ったら十分すぎるほど大人なんだけど、それ以上に周りに大人の(都会の)雰囲気を感じた、不思議な映画館だった。