1月25日 温泉街
細い少し曲がりくねった道の両側に土産物屋や民宿が軒を連ねている。
何軒かおきに上り坂の路地があり、ほとんどが石畳だ。
滑り止めにちょっと似合わない緑のラバーが張ってあったりもする。
ここにはちょっと風情のある旅館や民家の間に白い湯気を幟に外湯が点在している。
中心通りをぶらぶらしてみる。
土産物屋の店先には定番の温泉饅頭の蒸篭からもくもくと白い湯気が目と鼻に美味しさを運んでくれる。
いろんな種類の野沢菜が白いご飯に限りなく似合う。
豊富な果物のジャムは古そうなお店に似合わないほどおしゃれに並んでいる。
隣はリンゴの直売店で、甘い独特な香りを通りに振り撒いている。
その香りに誘われて店に入る。
信州限定りんご三兄弟!!
さっぱりとした甘さ「秋映え」
深い甘さときれいな色「信濃スイート」
さわやか青色りんご「信濃ゴールド」
さわやか青りんごにそそられる。
見た目は甘いだけの王林と似ているが味はかなり違う。
しっかりりんごの主張をしている。
さっぱりとした酸味にほんのりと未完成の甘さ。
めいっぱい味見させてもらって、またぶらぶら歩きをする。
タオル一本持って外湯めぐりだ。
この温泉街には13箇所もの外湯と呼ばれる共同浴場が点在していて、外観はもちろんのこと泉質や効能も温度も違う。
まずはここのシンボルでもある大湯に入る。
四国の坊ちゃん湯のミニチュアのような外観は、いかにも湯屋といった風情がある。
外湯は入湯料はとらない。
入り口にお賽銭箱がめだたない感じで置いてある。
入れるも入れないも自由だ。
管理も当番制で街の人が行っている。
壁に掛けてある当番札が懐かしい。
外湯に入って火照った身体をまた、外の寒さが冷ましてくれる。
冷め過ぎない程度でまた次の風呂に入る。
贅沢な楽しみ方だ。
そのうち雪もちらほら落ちてきた。
路地をどんどん上がっていくと麻釜(おがま)に辿り着く。
ここは地元の人たちの生活ニ密着している。
山菜や野菜を湯がいたり、野沢菜を洗ったりして利用している。
もう暗くなっていたので実際使っている様子は見ることができなかったが、すぐ近くの店先に湯がいた芋やトウモロコシが美味しそうに並んでいた。
朝早くそこでもくもくと朝餉の支度をする様子を思い浮かべる。
すれ違う人の顔を見るとみんななんとなく楽しそうだ。
住んでいる人も、訪れた人も、それぞれ冬の小雪ちらつく温泉街の道を和やかな表情で歩いている。
こんなところに住みたいなぁ・・・。
心からそう思えた。
鄙びた温泉街では決してない。
もちろん洗練されているわけではない。
大きな声が飛び交うわけではないのに、活気を感じる。
ささやかに幸せに生きているという雰囲気がするのだ。
触れ合わなくても、もうすでに触れ合っているような心地よさ。
街同様に、そこに住んでいる人もの過剰な干渉もなく、ひっそりと暖かく、訪れる人を拒まない何かがここにはある。
野沢温泉はそんな温泉街だった。