2月5日

イノセント・ボーイ

知り合いの24歳になる青年とじっくり話す機会があった。

彼は職業柄とてもきれいな日本語を使う。

返事は「はい」語尾は「です、ます」と、相手の目をきちんと見て話す。

最初の頃は慣れないせいか堅苦しい感じがしたが、いつのまにかそれも心地よさに変わった。

彼は中学・高校時代に登校拒否をし、一時引きこもり生活をしたこともあったらしい。

高校卒業と同時に知り合いの伝手で今の会社に就職し、22歳の時に結婚して今は1歳半の男の子の父親でもある。

彼の悩みを聞いた。

彼は、自分の感情を出せないと言う。

嫌いな人にも、意地悪をする人にも、嫌われたくないと思うそうだ。

そんな自分が八方美人に思え、嫌悪さえすることがあるらしい。

そして、怒りを我慢する。

悲しみという感情はわからないと言っていた。

その我慢した怒りは自分に向けられる。

自分を傷つけることによって、その痛みが怒りを沈めてくれるそうだ。

そう淡々と、少し寂しそうに話す彼は自分の喜怒哀楽を素直に出せる人がうらやましいと言う。

しかし、同時にその人たちを見ていると酷く傷ついてしまうとも言う。

自分の行動が相手を傷つけないと確信すると、安心すると言う。

いつも癒されたいと思っているけど、なにが自分にとっての癒しかがわからないとため息をついていた。

何か彼に言ってあげたかったが、私は言うべき言葉をなかなか見つけることが出来なかった。

「文学とか芸術とか、そういうものって苦悩から生まれるじゃない? 物事を深く考えたり悩むことは決して無駄じゃないし、ましては悪いことじゃないと思う。そう思う自分を嫌いにだけはなって欲しくないな」

そう言うと、ちょっと考えて彼は「いつも嫌いなわけじゃないと思います」そう言った。

何よりも安心したのは、彼は両親を尊敬している、迷惑もかけたと思っていると言ってくれたことだ。

そして、自分が引きこもっていた時にじっと見守ってくれたことを今はとても感謝していると・・・。

 

お金はたくさんないが、ここぞと思うときは細かいことは考えないと言う。

私にくれたお土産は桐の箱に入った文明堂のカステラだった。

1号サイズで普通のカステラと比較すると倍の値段がする。

私は今までそんなカステラを貰った事もあげた事もなかった。

それを24歳の青年にもらった。

彼はそれを男の見栄だと言う。

5時間近くそんな話をした後で、「カラオケでも行く?」と誘ってみると、彼は初めて24歳らしい笑顔で「行きたいな」と答えた。

DJオズマとかオレンジレンジとか、今風の歌を何曲も決してうまくないのに楽しそうに歌っていた。

そんな中で、私が一番彼に合っているな・・・と思った歌があった。

音をはずすこともなく、気持ち良さそうに歌いあげた。

「どうして、こんな古い歌知ってるん?」そう聞くと、

「上司が歌っていたのを聞いて、いい歌だと思って覚えたんです」と笑う。

 

「海、その愛」加山雄三の歌だ。

 

 海に抱かれて 男ならば

たとえ敗れてももえる夢を持とう

 海に抱かれて 男ならば

たとえ独りでも星をよみながら

 波の上を行こう

海よ俺の海よ 大きなその愛よ

男の想いをその胸に抱きとめて

 あしたの希望を

 俺たちにくれるのだ

 

海よ俺の母よ 大きなその愛よ

男のむなしさふところに抱き寄せて

 忘れさせるのさ

 やすらぎをくれるのだ

 

最後まで聴いてから、私はトイレに行って泣いた。