コーヒーの話
ネタが切れたときは、自分の嗜好について話してみよう。
コーヒーは私の嗜好品のひとつでもある。
カフェインが体に余りよくないことを知りつつもなかなか止められない。

最初に飲んだのは、子供のころ大人の飲み物としてのインスタントコーヒー(たぶんネスカフェの大瓶)だったと思う。
ちっともおいしくなかった。
母からは、「子供が飲んだら頭が悪くなるのよ」と聞かされて、コーヒーは恐怖だった。
色も黒くて、臭いは焦げっぽくて、味は苦くて、これがいわゆる大人の味なのかと思っていた。
高校のとき、喫茶店なるものに入る機会があっても、コーラとかレモンスカッシュとかを飲んでいて、コーヒーを注文する友だちがひどく大人に見えた。
最初に本格的なコーヒーを飲んだのは、高校3年の頃にアルバイトをしていた喫茶店だったと思う。
たしか、ランチサービスに150円で出していた、日替わりにコーヒー豆の種類を変えていた。
大きいネルの袋にまとめて落として行く。
それを見るのが好きだった。
薄暗い店内に落としたてのコーヒーの香りが満ち、その香りが心地よく感じるようになった自分が少し大人になった気がした。
「これが一番高いんだ」と、店の人に教えてもらって飲んだのが、ブルーマウンテン。
金曜日の午後だったと思う。
月曜日は「モカ」火曜日「キリマンジェロ」水曜日「ブラジル」木曜日「マンデリン」土曜日「ハワイコナ」と、その順番をいまだに覚えている。
父もコーヒーが大好きな人で、お気に入りは、苦味が強く濃厚なコクのある「トラジャ」で、よく新宿のコーヒー豆のお店に買いに行かされた。
その父がICUで闘病中に最後に口にしたものはコーヒーだった。
もう気管切開をしていて声も出せなかったのに、「コーヒー」とその唇が知らせた。
看護師さんにお願いしてインスタントコーヒーで氷を作ってもらって、それを父の口に入れると、本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔は10年経った今でも鮮明に覚えている。
コーヒーが美味しいのかと聞かれると、「はて?」と首を傾げる。
好きかと聞かれると、迷わず「好きだ」と答える。
一時期、紅茶が好きになり、いろんな種類の紅茶を飲んでいた時期もあったが、また今コーヒーがえりしている。
特にこだわりはないが、インスタントではなくコーヒー豆を挽いてドリップしたものが好きだ。
濃いのも薄いのも、話ながら飲むコーヒーも、ちょっと冷めてしまったコーヒーも、独りで飲むコーヒーも好きだ。
ときどき、美味しいと感じるコーヒーを飲める事もある。
それは、その場の雰囲気と、カップと、香りと、程よい苦味と、濃さと全てが兼ねそろったときに初めてそう思う。
めったにない「美味しい」と思える瞬間だ。
広島にもそういう喫茶店がある。
かつては三原にも何軒かあったが、今は営業していないのが寂しい限りだ。