シネマパラダイス

マニアとまでは言えないけれど、物心ついたころから映画が好きだ。
10歳の頃に「土曜洋画劇場」が始まり、淀川長冶氏(映画評論家)の、テレビの中から今にも出てきそうな雰囲気を持って語りかける解説も楽しかった。
「それではじっくり見てくださいね。後でまたお会いしましょう」と始まり、お別れには次週の紹介を終えた後、「それではみなさん、さよなら、さよなら、さよなら」と笑顔で〆る台詞を聞かないと落ち着いて寝むれないほどお気に入りだった。
父親が洋画好きで、その日だけは9時までに、お風呂も歯磨きも済ませて寝巻きに着替えて、両親の布団に潜り込んで家族で映画を観ていた。
最初に記憶している映画は「避暑地の出来事」だ。
洋画なので、ときどきラブシーンがあり、決まって両親が「ほら、ちょっと目をつぶっていなさい」とそのシーンが終わるまで目を瞑らされていた。
「鉄道員」「禁じられた遊び」「太陽がいっぱい」「ひまわり」「ローマの休日」映画の中で、日本以外の生活を知り、風景を見、きれいな俳優に憧れ、音楽に酔いしれ、知らない世界を見るという好奇心が満たされた時間だったと思う。
特に父は西部劇が大好きで、「荒野の用心棒」「真昼の決闘」「シェーン」などは何度も観ていた。
なかでも「シェーン」がお気に入りで、有名なラストシーンである少年の「シェーン」という声は、今でもはっきりと覚えているくらいだ。

初めて洋画を映画館でみたのは中学生の頃「ある愛の詩」だった。
銀座の赤絨毯が敷いてある映画館で、初回上映は指定席が解放されるのでそれに合わせて早起きして友だちと観に行った。
一本の映画を見るために2時間近くかけてその場所に行き、並んで高いお金を出して高級な椅子に座って観るという贅沢感は、なんでも手軽になってしまった今にしてみれば、とっても貴重な体験だったと思う。
高校の頃は家と学校の間に名画座という映画館があって、2本立か3本立てで300円という安さだったので、隣のスーパーで食べ物を買って一日ずっと映画を観ていたこともあった。
フェリーニ特集の日は「道」「甘い生活」「フェリーニのローマ」
青春特集は「卒業」「ロミオとジュリエット」
コンサート特集では「ギミーシェルター」「バングラデシュのコンサート」「ウッドストック」といったように・・・。
まだビデオもなかった時代なので、入れ替えなしの映画館が大活躍だった。

先日、まだ30歳の友人と映画の話になり、お互いのお気に入りの映画の話になった。
彼はなんとフェリーニの「道」が一番好きだと言っていた。
内容は忘れていたので、またDVDで観てみよう、と思っていた矢先、福山でたまたまそれが上映されていた。
これは当時アカデミー賞の外国映画賞をはじめ数々の映画賞を受賞した映像の魔術師と言われるフェリーニの代表作で、深い映画だ。
この映画が話を聞いた途端に身近で上映されるなんて、不思議な縁を感じた。
それから、また自分の中で古い映画のリバイバルが始まった。
BSでアカデミー賞特集をやっていたこともあり、忘れていた古い映画を観る機会が訪れた。

時代が変わって、生活習慣や文化が多少変わっても、「感じる」という根っこの部分はそうそう変わらない。
ただ、その時に感じなかった何かを、また感じることがある。
それは忘れてしまっていたことかもしれないし、まだ感じることができなかったことかもしれない。

ちなみに私のお気に入りの映画は「ニューシネマパラダイス」で、これにも数々のエピソードがある。
ちょうどカープの試合が雨天中止になり、広島のシネツインでかかっていたのがこの映画だった。
ラストから滝のような涙が出てきて、雨の中広島の本通りを泣きながら歩いた。
くしくもこの映画は淀川氏の大好きな映画で、彼もこれを見るたびに泣けて泣けて仕方がないと後年話していた。

福山に新しくシネコンが出来た。
映画の街、尾道でさえ映画館のない実情からしてみれば、三原に映画館がなかなかできないのも無理のないことかもしれないが、自称映画好きとしてはなんとかシネマパラダイスに三原がなればいいのにな・・・と思う。