願いごと

6年前まで毎年9月になると世羅に梨を買いに行って実家に送っていた。
母は、主食と言えるくらいの無類の果物好きで、旬の果物を欠かさない。
瀬戸内は果物が美味しくて、特に夏から秋にかけて桃・葡萄・無花果・梨とおいしい果物が目白押しだ。
中でも、世羅の幸水梨は全国的に有名なブランドで、関東ではなかなか手に入らない。
初めて、幸水梨を送った時には、あまりの美味しさに喜びより驚きのほうが多かったようだ。
そして、自宅用には世羅の農園でコンテナごと買って友だちや近所に配り歩いて楽しんだ。
コンテナの中にはいびつで器量の悪い、でも味は美味しい梨が40個はあった。
母が近くに来てからは、いつの間にかそういう行事もマメにこなさなくなっていた。
先日、友だちと世羅に行く機会があり、ついでに寄った農園の出店で買った梨の美味しさ、安さにふと今年は母たちを連れて農園に行ってみようか、と思い立った。
梨農園だけではなく、道の駅を見るのも大好きなので、二人の母は大喜びだ。
まず、行きに甲山ふれあいの里、まつたけ村に寄った。
先に店に入った二人は「お昼ごはんに松茸弁当買ったよ!」とはしゃいでいる。
松茸は高いのでお弁当だけにして、隣のお店で野菜や茸、蒟蒻などをたっぷりと買う。
それからお目当ての梨農園へ。
よく買いに来ていた頃は、梨園の上に大きな小屋と駐車場があって、日曜日は満車状態で、試食コーナーは長蛇の列だった。

今は○○農園という名前も横文字になり、リニューアルされてきれいになっている。
平日ということもあり、この日はだだっ広い駐車場もガラガラ状態。
嬉しいことに懐かしいコンテナコーナーも試食コーナーもまだ健在だった。
たくさんおまけしてもらってコンテナの梨を米袋に入れ替えて車に積み込む。
値段はだいぶ高くなっていたが、梨そのものも形はいびつでもあたっているものはほとんどなく、そういえば前はハエもぶんぶん飛んでいたっけ、と思い出す。
閑散とした農園の横に草むらがあり、大きな木の下に木のベンチが5つほど置いてある恰好な場所があったので、そこで松茸弁当を食べることにした。
母たちと外でお弁当を広げるのは久し振りで、春の花見以来のことになる。
空は曇りで、暑くも寒くもないちょうどいい体感温度でもあった。
別に買ったおかずにも、栗を甘く炊いたものや茄子の天ぷら、高野豆腐の煮物があって、これまた秋色。
三人で「やっぱり松茸は美味しいね。最後に食べたんはいつだっけ?」などと言いながらぱくぱくと食べる。
少し量が多いかなと思ったが、みんな見事に完食、食後には草餅をたいらげる。
母が急に、「四つ葉のクローバーを探してみよう」と、仁王立ちになって探し始める。
「なかなか見つからんでしょー」と私が言い終わる間もなく「あった!」と嬉々として母が叫んだ。
「よっし! 私も探してみよっと!」
それから、義母は背中を丸くして、私は低い体勢で、それぞれのスタイルで探し始める。
「あった!」
「見つけた!」
二人は、立て続けに見つけては喜んでいる。
前の日に見たテレビで四つ葉のクローバーを探すシーンがあって、あれは最後まで誰も見つけられなかったな、そんなことを思いながら探す。
二人が3枚も4枚も見つける中、私はなかなか見つけられず、先日から大事なものを探していて見つけられないこともあってなんだか情けなくなってきた。
二人が見つけている群生に移動して、少し遠くから全体を見渡す。
「あった! あった! やっとあった!!」
「みんな見つかってよかったね。きっといいことあるよ」
「久しぶりに童心にかえって楽しかったね」
二人が、楽しそうにそう話す。
コスモスや鶏頭が咲き、金木星の匂いたつ早秋の日、こうして二人の母と過ごす平和なひとときが、ずっと前から三人で時々こうして遊んでいたような錯覚さえする。
家に帰って、何度も探してみた場所を最後と思ってまた探してみたら、それはあった。
まるで湧いてきたように・・・・。
「お母さん、あれあった、見つかったよ!」
「んまぁ、よかったねぇ、きっと四つ葉のクローバーのおかげだね」
そう、間髪入れずに母が言った。